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演奏:CD『木下牧子浪漫歌曲集』

写真:CD『木下牧子浪漫歌曲集』FOCD9496/フォンテック のジャケット

1997年に、木下牧子さんから依頼を受けて、木下牧子プロデュースによるCD『木下牧子浪漫歌曲集』を収録するという光栄な機会をいただきました。収録曲は、歌曲集「六つの浪漫」 風をみたひと、夢、草に寝て…、重いのはなあに?、風が風を、ほのかにひとつ、歌曲集「愛する歌」 誰かがちいさなベルをおす、ロマンチストの豚、雪の街、ユレル、さびしいカシの木、歌曲集「秋の瞳」 おおぞらのこころ、植木屋、うつくしいもの、一群のぶよ、歌曲集「秋の瞳」 秋のかなしみ、竜舌蘭、黎明、不思議をおもう、空が凝視ている、歌曲「涅槃」です。

私は、木下牧子歌曲作品はピアノと歌が一体となるとオーケストラに匹敵する繊細な響きになると感じていることを既に記させていただきました。このCDのタスキに音楽評論家の高橋英郎氏は『彼女の音楽に現代では稀な色彩を感じた…』と記していらっしゃるのを拝見して、その意味するところが私なりによく解るように思いました。響きが繊細なので・・・色彩豊かに感じるのだと思います。

私には、収録曲の全てが風にゆれるように変化する太陽の木洩れ日の爽やかさと美しさを纏っているかのように感じました。私は、このキラキラとした透明な美しさが木下作品演奏表現に重要と思いました。そして歌詞の朗読と歌うことを続けていくうちに、爽やかさと美しさの奥にゆるぎなく在るメッセージが天の轟のように聴こえてきました。私がこれまで演奏させていただいた木下作品に一貫して感じるのは、時間空間を超越して在る魂・生命のきらめきです。

私のボイスコーチのスターノ氏は、「収録で何度も同じ曲を歌い直すのは良くない。集中して歌って一度で決めることだ。フレッシュな声は重要。」とアドバイスをくれました。ホールを借り切っての収録でした。収録の間中、身体が声楽の楽器で、私は歌う道具であることを意識していたと思います。私は、曲を吹き抜けていく「風」をイメージして発声し、作品の中に通奏低音のように鳴っている「魂・生命」を感じながら、途切れなく繊細に揺れて光が変化する木洩れ日のような爽やかな美しさを感じるままに歌っていきました。

CD「木下牧子浪漫歌曲集」が1997年の発売から2023年の現在も再販されて皆さまに聴いていただけているのは、作曲した木下牧子氏ご自身が収録曲を選曲し、歌手を決め、録音当日に立合って気になるところを指摘し、歌い手を自作品の歌う道具として使いきる、という、作曲者自身が演奏したCDだからだと思います。私は一個の歌う道具としてこのCD収録に参加させていただきました。大変に感謝しております。

ピアノは渡辺健二氏です。渡辺健二さんの明るくて深くあたたかな情感が、豊かな音の響きとなって、渡辺さん自らを主張することなく、あくまでも歌に寄り添ってピアノが一緒に歌っていることを、歌いながら感じていましたが、出来上がったCDを聴いて見て、客観的にも心底「すごい!」と思いました。ソリストである渡辺健二さんの歌う力をひしひしと感じました。

当時、英国のウエールズに合唱団との交流で滞在する機会が長期にわたってありました。その時に全英ヒットチャート1位だったのはポップスやロックではなくボーイソプラノが歌っている愛唱歌のような曲でした。この曲と同じ爽やかな風を木下牧子作品に感じた私は、木下さんの歌がヒットチャート1位になって、多くの人と、この爽やかな風を楽しみたいと思いました。

かけがいのないCD収録の体験をさせていただいたことを、感謝しております。

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