写真:二期会公演オペレッタ《こうもり》ロザリンデ 尾高忠明:指揮 栗山昌良:演出
英国の詩人アルフレッド・テニスンの詩にR.シュトラウスがピアノ演奏を付けた作品《イノック・アーデン/Enoch Arden》を、脇村敬子氏の翻訳で、ピアニスト尾高遵子氏と、1月25日(土)に公演いたします。主催は(有)シュリック。
開場:13時 開演:13時半
場所:スタジオノア田園調布音楽サロン 03-5483-0082 〒145-0071 東京都大田区田園調布3丁目5−10
入場料:3000円、 チケットは当日券のみ 1月23日現在、完売とのことです。
ピアノ:尾高遵子、朗読:豊田喜代美、解説:尾高忠明
訳:脇村敬子
※変更の場合がございます
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この作品は、長岡輝子氏(女優)と尾高惇忠氏(作曲家)によって、全国各地で公演されておりました。
尾高遵子氏の企画により脇村敬子氏がテニスンの詩を英語から日本語に翻訳し、朗読は豊田が担当することになりました。
脇村氏の翻訳に則り、今回、新しく朗読原稿を尾高遵子氏と練習を重ねながら作成いたしました。
朗読では4人の登場人物それぞれを台詞で表現するという未知の経験にドキドキしながらも、詩の内容に吸い込まれていっています。
感動して涙が出て来るのですが、朗読発声がゆらぐなどの影響が出ないよう、感動を心深くに埋めるようにして練習を重ねています。
テニスンという詩人について調べ、その詩を読んで味わう感動、また私にとってR.シュトラウスの新しい感性に触れているという充実感があります。
1月14日時点のリハーサルでは、私の朗読の練習が進んだせいか、尾高遵子氏のピアノの響きがよく聞こえるようになり、R.シュトラウスが詩に感動して作曲した感覚が伝わってきて、朗読を促してくれるように感じました。更に一生懸命の練習が必要と思っています。
尾高遵子さんは、最も敬愛申し上げるピアニストで、尾高尚忠作曲ピアノ二重奏《みだれ ~2台ピアノのためのカプリッチョ~ Op.11》の尾高遵子・小坂圭太の、触れると切られそうな響きの凄さに圧倒されました。また、日本各地、多くの演奏会に共演してくださり、中でも貴志康一歌曲演奏が多いと思います。貴志もシュトラウスも歌曲作品を多く作曲しており、オーケストラの多彩な音色の響きで情感豊かな表現が生まれるオーケストラ歌曲を作曲しています。貴志はピアノ作品を作曲しておらず、シュトラウスもほとんど無いという共通点に思い当たりました。
今回、素晴らしい作品「イノック・アーデン」朗読の機会を私に与えて下さったことを感謝しています。
何よりも尾高忠明マエストロのお話しがあることで、この公演は最高に豊かな芸術の時となることと思っております。
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【終演後…】終えてから3日間は、何をしていてもピアノの音が頭から離れず、大海原・自然のすさまじさ、イノックが絶望してよろめいてつっかかって転び指が地面に突き刺さる様、アニイの心がひきさかれるような壮絶な悲しみ、霧に包まれたはしばみの森、デーン人の墓の灰色の情景、幼くして死んだ息子の髪の巻き毛、イノックが信仰にすがって耐えに耐え切った雄々しさ、などが、走馬灯のように音と共に頭をめぐっていました。その音は、半音階のパッセージや1オクターブの強烈なフォルテッシモの表現で、繰り返し繰り返し頭を巡っていて、いつまで続くのか不安になりましたが、1週間が経った今…何となく遠ざかりました。私にとって深く魂を揺さぶられる作品でした。これまでも演奏会当日は終演後にパッチリと目が開いたまま眠れないことがほとんどでしたが、1日のことでした。歌唱よりも朗読の方が~少なくともイノックアーデンに関しては~私にとっては心身への残留が長いと思いました。本番時には、イノックに起こることをR.シュトラウスが暗示的に音楽に込めている箇所を、尾高遵子さんも私も感じ取っていた分、ピアノと朗読のタイミングは適切であったと思います。
私が関心を持っている「人への音楽の作用」(※)に、言語脳を刺激する朗読(+音楽)も加えたいと感じました。大変に貴重な、音楽と朗読体験が与えられたことに感謝しています。
(※)1998年九州交響楽団定期演奏会マーラー作曲交響曲第四番のソリスト演奏の翌日にホスピス病棟で日本の愛唱歌とアヴェ・マリア演奏の希望していたご奉仕をさせて頂き、一人の車椅子の患者さんが活き活きと私の目をしっかり見て「私はこの歌のこの言葉で生きています。」と具体的に教えてくださった時は私にとってこれまでとは違う次元を見せていただいたように感じました。このようにホスピス患者さんをピカピカに元気にしている音楽・歌についてじっくり考えてみたいという気持ちが強くなり、夫が大学案内を持っていたご縁で北陸先端科学技術大学院大学を知り、1999年に博士前期課程を受験しました。大学卒業したての若い学生さんと共に、私にとって初めての物理学、数学Ⅱ、認知科学、論理学、統計学、等々…、それこそ必死にオフィスアワーをフル活用して指導を受け、レポート提出のため徹夜は当たり前という一生懸命で何とかついていくことができました。特に認知科学はこれまで自覚のなかった固まったような心身の領域に生命の水が流れ込んでくるような感覚がありました。講義の途中で、あのホスピスの患者さんを幾度となく思い出していました。グランドピアノが置かれた大学のロールプレイルームで思うまま練習と研究(実験検証の場としても使用)に集中できたのは大変恵まれていたと感謝しています。主観的な芸術と客観的な科学のコラボレーションは、最先端の学識者である諸先生方のご指導によって学会発表に導かれ、私なりに充実した学びとなり、研究⇒発表⇒若い人たちへの指導と共演による切磋琢磨、という場が与えられ、現在も鍛えられ続けていることに感謝しています。ホスピス患者さんに出会って感動して科学の領域に挑戦して10年経った頃に思いもかけない自分を見つけました。それまでに無かったことで、知りたい対象に瞬間的に集中していること、深く知りたい、本当が知りたい、という想いが強くなって格段に集中力が増したことです。それは演奏に向かう時にも影響を与えたと思います。北陸先端科学技術大学院大学修士論文は「音楽感受における音楽知の役割に関する一考察-J.S.バッハ「マタイ受難曲」における音楽知の機能-」(知識科学研究科知識システム基礎学専攻.指導教官:小長谷明彦教授.2001年3月)で、J.S.バッハ作曲「マタイ受難曲」の最終受難コラールを用いて、音楽の人への作用を音楽療法の観点から実験検証し考察しました。引き続いての博士後期課程では、博士論文研究「クラシック音楽歌唱技術における知識創造モデルースキルサイエンスからの接近」(審査委員: 中森 義輝 教授 (主査) 國 藤 進 教授 藤波 努 准 教授.慶応義塾大学 古川 康一 教授 作陽音楽大学 米山 文明 客員 教授)で博士号を取得しました(2008年3月,先端大に入学して10年目)。これは私自身を被験者に、その発声法を非侵襲性の体表振動測定による科学的検証、および、芝祐久,作曲、与謝野晶子,詩による源氏物語「花散る里」歌唱演奏における発声実践事例、他を記したものです。その際、お電話で芝先生に「小節線を外して歌いました」とお話したところ、芝先生は「本当は小節線は無くて良いのですが、あった方が歌いやすいでしょう?」と心に染みる優しいお声で仰いました。芝先生とお話できたことに心から感謝しています。博士前期・後期課程の成績表は大切に保管しています。
若杉弘マエストロに頂いた言葉、「喜代美ちゃんは、何で、そんなに勉強が好きなの?」「年齢を重ねて感情の引き出しがたくさんになって表現できる時に、歌声が応えられないのは悲劇だよ。」を最近、よく思い出します。そしてボイスコーチの「この世を去る瞬間まで発声技術は向上する」を信じ、楽器である身体を良好に保つよう努めたいと思っております。
リサーチマップ https://researchmap.jp/gratiamusic1_11_4
上記の研究から今たどり着いている考えは、個別の人それぞれの感性が音楽に反応することによって個別の人それぞれの心身にその人だけの音楽体験が創造され、その結果、音楽療法に示されているように、その人を良好な状態(well being)にする人への良い作用が実現する可能性、感性の重要性です。
数百年、それ以上を経て、人々に愛され演奏されている音楽作品に込められている不変・普遍の価値は時代を超えて、必要としている人の心身を癒していっていることに感動します。私は、感性はその人の身体の外と内を繋ぐセンサーであると考えております。その重要性を事あるごとに認識させられています。
身体を楽器とする声楽トレーニングに科学的視点を加えることの感性への効果を得るための場として、音大では沖縄県立芸術大学で授業「身体知基礎演習」を、総合大学では東京大学で身体運動科学者・工藤和俊教授との共同授業「楽器としての身体:声楽の実践と科学」を設ける機会が与えられました。呼吸と姿勢に注目した授業内容です。音大および総合大学共に履修生全員に効果を確認できました。最大の効果は、音大生も総合大学学生も等しく自らへの自信です。
あの福岡のホスピス患者さんは1998年お会いしてまもなく帰天されましたが、その時以来ずっと変わらずに私の中に共に生き続けていらっしゃるのを感じます。改めて出会いに感謝し、ご冥福をお祈りします。そのホスピスでご奉仕させていただた演奏会に同行して一部始終を共体験した夫は私の希望を深く理解し自分のために持っていた大学院大学入学案内を私に見せてくれたことで45才での大学院大学入学に向かうことができました。感謝しています。
人への音楽の作用を、Well beingへの寄与を目的に考えられていくことを声楽演奏家の1人として願い続け、微力であっても努めて参りたいと思います。音楽家・貴志康一その人と作品を次代に繋げることも、その一つであると考えております。9月23日(火・祝)貴志康一作品によるリサイタル,サントリーホールブルーローズ)に集中していきたいと思っております。