活動について

リサイタル・公式演奏歴50周年 を終えて

写真:リサイタル後半の歌唱時のスナップ サントリーホールブルーローズ9月23日2025年

「豊田喜代美公式演奏歴50周年記念ソプラノリサイタルー次代につなぐ貴志康一作品」を本年9月23日(月・祝)にサントリーホール・ブルーローズに於いて、貴志康一作曲の歌曲とヴァイオリン曲の演奏会を、渡辺健二氏のピアノ、澤和樹氏のヴァイオリン、と共に開催させていただきました。

世界初演した「大島おけさ/西條八十 詩」と「春の歌/源実朝 詩」は、両曲共にオーケストラ版で作曲されています。今回は、貴志康一の自筆譜を澤和樹氏が浄譜して編曲(ピアノ・ヴァイオリン・声楽 版)してくださり、演奏が実現しました。これまで歌ってきた作品とは感じるものが異なり興味深いです。研究演奏を継続していきます。

今回のリサイタルでは初めて演奏者のトークを(短く)入れ、また、貴志康一の母校(甲南高等学校・中学校)の現在の校長・山内守明先生にお願いして、貴志康一の年譜をホールの大スクリーンを使用してプレゼンしていただきました。演奏会で演奏以外にプレゼンをいれるという試みに対して不安は大きかったのですが、貴志康一を感じていただく基本的情報をお伝えしたい、という願いの方が大きかったので実行しました。山内先生の素晴らしいプレゼンに感謝しています

豊田の母校・桐朋女子高等学校普通科の現校長・内田美保子先生もプログラムにお言葉をくださり、私は一気に当時の自分を思い出しました。今回のリサイタルでは、これまでの歩みを振り返ることになり、つくづく母校の教育理念に育てられた自分を感じる機会となりました。母校には卒業後も変わらずに「先生(私よりも年下でも)」がいてくださることを実感できたことは私にとってかけがいのない幸せでした。先生方の存在は、リサイタルへの緊張と不安を乗り越える大きな力となりました。心から感謝しております。現在、私は年齢的にも見守り支援する立場になっておりますが、演奏家には年齢は無く、生涯精進でその研鑽は孤独と考えています。甘えではなく、身内でなくても、時に触れ、見守ってくださっている存在を知ることは、更にがんばれる力をいただくことと感じました。

1975年の読売新人演奏会出演から2025年の今年、公式演奏歴50周年を迎えることに気づいた時、さまざまな体験が浮かび、本当におかげさまで迎えることができたのだ…と、ただただ感謝の想いでいっぱいになりました。演奏準備を初めてから、解釈において「これで正しいのだろうか」という不安、感染症流行の中で押しつぶされそうな緊張の中、ひたすら一生懸命に練習に努めることで「大丈夫」と信じるしかありませんでした。自主練習の分解練習を経て、貴志康一作品を私が歌うのではなく、作品そのものに歌わされていると思えるまでの練習状態になって、ピアニストとの合わせになり、ヴァイオリニストが加わり、創発し合って歌う喜びに導かれるまでになって、演奏会本番となりました。そして、演奏会最後の曲、貴志康一編曲の日本古謡「さくら」を会場の皆さまと演奏者とで歌い終えた時には、何ともいえない音楽の喜びにホールが満たされていたと私は感じました。貴志康一の音楽の本質の1つと私が感じる「明るさ」を、聴く人がそれぞれに受け取ったのではないか…と思えました。終演後直ぐにホワイエに出て皆さまと会い、「これからも人の喜ぶ歌を歌ってください。」との言葉を頂いた時には嬉しくて涙が出そうでした。「リサイタルを貴志康一作品と共に、渡辺健二氏と澤和樹氏と開催して良かった…。」と心底思いました。

今回、幸せにも、日本演奏連盟の宗次エンジェル基金、を頂いており、結果報告に、聴取者から文字記載で頂いた感想(9月28日現在)を提出しました。下記のとおりです

・音楽評論家(マネジメント東京二期会を介して):豊田さんの長年培われてきたテクニックが高音域への跳躍などではっきりと皆様さまに伝わったことと思う。貴志康一さんも喜ばれているのではないか。未発表の〈大島おけさ〉〈春の歌〉も感激しながら聴いた。楽譜も「見つけて欲しい人」が出てくるまでずっと待っていたのかもしれない。別名義の曲も近い将来ぜひ聴くことを願っている。

・作曲家:相変わらずの素晴らしいお声に最初からびっくりしていた。ピアノの渡辺さんも味があるピアノで好きだ。貴志康一さんの作品をあらためて聴いてみると素晴らしい。交響曲やヴァイオリン協奏曲などもう一度ちゃんと聴いてみようと思う。

・デザイナー:ヴァイオリンが凄かった。繊細さと、芯の強い貴志康一像が迫ってきた。

・女優:リサイタル、とても素敵だった。美しい歌声とトーク。衣装もメークも良かった。

・大学名誉教授(芦屋市在住):バイオリン曲を含めてすべて貴志康一作品で、貴志康一のファンとしては至極の時間だった。豊田様の素晴らしいソプラノを生で聴かせていただき、本当にこのような企画をしていただいて有難う。

・貴志康一の姪:いつも変わらず愛に満ち、豊田さんの情熱と希望が客席と一体になり、心和むひとときだった。心から御礼申し上げます。

・貴志康一の甥:康一伯父に対する深い思いと愛情、光を当て後世に残そうとの強いご意思が伝わり、親族として感激と感謝に包まれたリサイタルであった。いとこ会の席では「これほどまでに貴志康一愛を感じられたリサイタルに出席したことはない」との話題で持ち切りだった。深い洞察と愛情で、伯父を取り上げて頂いた村瀬博春様の論考も拝読した。ブルーローズの遥か空の上から、伯父もあや伯母も母も、どんなに喜んだ事だろうか。

・愛好家:これまでにない企画構成で大変良いコンサートだった。貴志康一と私の父と同い年で身近に感じた。豊田さんの声はいつもながらハリがあって声量があり素晴らしい。ジャス風とブルース風の曲も大変に楽しみ。

・ピアニスト:今日は豊田さんの素敵な歌声が聴けて幸せな1日だった。貴志さんのヴァイオリン曲も聴けて勉強になった。

・桐朋女子高等学校教諭(数学):素敵な時間を過ごすことができた。豊田さんの歌声からは、今回のリサイタルのテーマでもある「感謝をこめて次代につなぐ」というメッセージを感じた。また校長先生(甲南高等学校・中学校)のプレゼンや豊田さん渡辺さん澤さんの語りによって貴志康一という人物について、その一端を知ることができた。会場全体が和やかな雰囲気で、たいへん心地よい時間だった。公式演奏歴五十周年、文字にするとたった一行だが、並々ならぬ情熱がなければ50年もの間活動を続けることは難しいだろうと感嘆している。これからも豊田さんのご活躍を祈念している。

・声楽家,声楽指導者:本日は郷愁を誘う素敵な演奏で、感動した。貴志康一作品は、どれも心の安らぎを覚えるものだった。豊田さんの解釈と分析が入念に行われた歌唱で、心が揺さぶられた。風雅小唄は研ぎ澄まされたソプラノのお声にほろ酔い感すら覚える第一印象だった。赤いかんざしは、hの最高音に悲痛な恋心が伝わって来た。祈りつつ行脚する修行僧の孤独、その吐息を感得。花売り娘は豊田さんと二重写しで、可憐さとセクシー感がにじみ出ていた。かごかきは、こぶしの部分が親しみ深く真摯に訴えるお声に好感有り。

・東京大学医学部教授:演奏はもちろんのこと、演奏された皆様のトークや校長先生のお話から貴志康一さんが身近に親しみを持って感じられ、楽しくかつ濃密な時間を過ごさせていただいた。そして、その音楽が例えば瀧廉太郎や山田耕作のようにもっともっと次世代に伝えられていくべきと、改めて感じた。

・声楽愛好家:素晴らしいリサイタルだった。声が美しく、伴奏者との息もぴったりで感動した。そして貴志康一という天才的音楽家を改めて心に刻んだ。

そして、

・10才以下の聴取者:終演後ホワイエで、今回が初めての西洋クラシック音楽鑑賞だという聴取者1人ひとりに「どうだった?あきなかった?」と聞いたところ、即座に「楽しかった。面白かった。」と嬉しそうに答えたのが驚きだった。貴志康一作品は子供たちに分かりやすい可能性が示された。

以上です。

〇 貴志康一の別名での未発表の作曲作品が複数在ります。その初演を楽しみにしてくださるご意見を、専門家と愛好家の両方から頂いたので、実現に向けて努めたいと思います。

〇 ピアニストの渡辺健二氏、ヴァイオリニストの澤和樹氏、の演奏・音響は私の魂に突き刺さり、その刺激で感性が全開になり、楽器である身体も全開で演奏することができたと思っております。心より、共演に感謝申し上げます。

〇 貴志康一を知っていただきたいという願いが、リサイタルのテーマになりました。1987年最初の貴志康一歌曲作品演奏(オーケストラとの)から絶え間なく貴志康一という音楽家について感じて調べ、演奏してきたのだな…と今回改めて自覚しました。プログラムには、貴志康一に関するご著書の紹介と共に、豊田と共に貴志康一作品の演奏研究を続けてきた村瀬博春氏の論考も、貴志康一を知る手がかり一つとして掲載させていただきました。よろしければお目通しいただけましたら幸いに思います。

〇 今回のリサイタルで深く自覚したのは、声楽の楽器は身体そのものであるという事です。鍛えて健康に保つよう努めたいという気持ちを新たにしました。ボイスコーチの言う「歌唱技術はこの世を去る瞬間まで向上する」という考えを信じて、心身を磨き続け、年齢を重ねて豊かになった情感を表現する音楽演奏の喜びを深化させ、それを、年齢層関係なく聴取者と分かち合えるよう努めたいと思っております。

どうぞよろしくお願いいたします。 

リサイタルスナップ

・澤・渡辺・豊田

※リサイタルプログラム

①豊田喜代美ソプラノリサイタルプログラム9.23.’25

②p4-5歌詞

③p60-61演奏スナップ

④p62-63演奏スナップ

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