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リサイタル:感謝をこめて次代につなぐドラマチックソング・貴志康一

写真:貴志康一(1906-1939)18才頃のポートレート ※この18才頃の写真と比較をお願いする写真は、既に本H.P.掲載の「作曲家 貴志康一について①」の25才頃の写真です。

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紙の写真と「作曲家 貴志康一について①」の2つの写真の年齢は18歳頃とそれから数年後と思います。写真を見比べると、その間の貴志康一の人生体験が厳しくお顔に刻まれていると感じるのは私だけでしょうか。

私は、本当におかげさまで公式演奏会デビューから50年を迎える来年にリサイタルを開催いたします。

タイトルを『感謝をこめて次代に繋ぐドラマチックソング-貴志康一』といたしました。

私は、1987年東京都交響楽団定期演奏会「日本の作曲家第1回-貴志康一」のオーケストラ歌曲演奏時に、初めて貴志康一の存在を知ってから、貴志康一の1才下のお妹様(山本あや氏)と大変懇意になり、貴志康一のゆかりの地や天神祭りなどを体験させていただき、自然に貴志康一の作品研究を進めることになりました。

貴志康一の作品をもっともっと多くの人に味わっていただきたいと願い、日本国内外のあらゆる機会で歌わせていただいてきました。ボンの在独日本大使館主催(ラ・レドゥートゥに於いて)でリサイタルを開催させていただいた時に、モーツァルトのモテット、J.S.バッハ、日本歌曲(貴志康一、中田喜直)を演奏させていただきました。

貴志康一の「かもめ」に感じてくださったバイロイトの議員の方から演奏会翌朝にバイロイト歌劇場のオーディションのお電話を頂き、翌年に受けて合格したことは既に書かせていただきました。貴志康一の歌曲はオーケストラ歌曲で当時のドイツ国内のオーケストラ演奏会で演奏され(歌唱:マリア・バスカ)高い評価を得ていたことの新聞評は遺されています(貴志康一記念室)。

貴志康一はピアノ伴奏譜も作曲していました。もともとオーケストラ歌曲ゆえに、音色が色彩豊かでドラマチックなオペラの要素があると私は考えております。

今年、2024年5月15日に初めての自主制作CDをリリースし、貴志康一についての研究内容をライナーノートに記しました。より多くの皆さまに貴志康一を知っていただき、歌っていただくことを希望しております。CD番号はFOCD9898です。

CDには、赤いかんざし(天神祭りのかがり火・初恋)、かもめ(海に出ている漁師が遠い里を思う気持ち・かもめ)、行脚僧(1人修行し旅する僧侶に寄せる心情)、かごかき(幼い頃から家族と共に親しんでいる大阪の風情)、という4曲の貴志康一自身の作詞による歌曲と、天の原(安倍仲麿)、そして木下牧子作曲のモノオペラ《暁の星》(夏目漱石「夢十夜」より)世界初演を収録しています。

リサイタルでは、CDに収録していない、貴志康一作詞の『芸者』『風雅(みやび)小唄』などもご紹介したいと思っております。そしてヴァイオリニストとして初のヨーロッパ留学(スイス)をした貴志康一のヴァイオリン曲の中の『竹取物語』は、湯川秀樹博士のノーベル賞受賞時に聴かれて知られるようになりました。日本の情感が流れるようにたおやかに響く、この名曲を澤和樹氏の演奏でご紹介させていただきます。

ピアノは渡辺健二氏です。CD収録時もそうでしたが、渡辺氏のピアノから醸し出される貴志康一の情感を感じて歌うのが楽しみです。

志康一は亡くなる前年、雑誌に、ウィーンを引き合いに出して、『大衆芸術』という言葉を遺言のように遺しています。この『大衆芸術』の意味は何?と考え続けておりますが、今も、これ!という自分なりの回答が見いだせないでおります。

リサイタルでは、聴衆の皆さまと共に貴志康一の軌跡を写真などでたどりながら、作品を演奏していきたいと思っています。多角的、総合的に貴志康一を感じていただき、歌曲への感受性が豊かになることを希望しています。このリサイタルを体験して『大衆芸術』の意味解明の重要な示唆が与えられるのでは、と期待しています。

貴志康一という、明るくて高貴な精神、愛に溢れている音楽家の存在に魂のレベルで触れ続けていることを幸いに思います。

貴志康一の作品を歌っていると、真摯にベストを尽くして才能を開花させ、日本人の感情を当時のドイツの人々に自作の詩とオーケストラ作品で紹介に努めた20才代前半の若い一生懸命な音楽人生が浮かび上がり、ひしひしと心が打たれます。

また、貴志康一は、在独日本大使館などともコンタクトを取り、当時ドイツに留学していた斎藤秀雄たちとも積極的に交流し、貴志家の妹たちをドイツの雑誌『Dame』に紹介したり、日本紹介の映画を自主制作するなど、記録を見ると、その一生懸命さが、まさに全身全霊であることが伝わってまいります。

NHK交響楽団(当時は新響)の指揮者として、ベートーヴェン『交響曲第九番』などでセンセーショナルな存在として注目され、正にこれから、という期待の集まっている中での28才の逝去でした。

貴志康一没後の彼の作品演奏会の時には、必ず豪雨になることが語り継がれていました。まさに豪雨で会場周りが洪水のようになった演奏会で演奏なさっていたヴァイオリニストの辻久子氏が1987年東京都交響楽団定期演奏会でも演奏なさいました。都響の演奏会当日は雨模様でしたが、終演後には雨が上がっていました。

心に沁みる貴志康一の情感の世界を多くの皆さまと分ち合うことを一番願っているのは貴志康一その人だと思います。リサイタルに向け、私は1人の声楽家として作品を歌う道具としての向上に努めて参ります。貴志康一の「一生懸命」を支えに、次代に繋ぐことを願って歌います。応援いただけましたら幸いです。

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※豊田喜代美ソプラノリサイタル~感謝をこめて次代に繋ぐドラマチックソング-貴志康一

2025年9月23日/火・祝 14時開演 サントリーホールブルーローズ

共演:澤 和樹 ヴァイオリン 渡辺 健二 ピアノ

 

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