※ 何故、蝶の写真か?再生を意味する「蝶」に、身体を声楽の楽器に作ることの期待を込めました。
器楽の場合、ピアニストには楽器のピアノがあり、ヴァイオリニストには楽器のヴァイオリンがあります。声楽の場合、歌い手の身体が楽器といえます。身体は100人100とおりで同じ身体の人はいません。声楽の指導を受けながらも、最終的には自分で自分の楽器を最終調整して作り上げることになります。
声楽の指導者は受講生の歌声を聴いて、楽器である身体の発声機構の具合を知り、指導します。その指導法の多くは、自らの歌唱の身体感覚を基盤に、歌唱する受講生の身体内部の状況をイメージして、正しいと思う発声に導きます。その際、歌声の響き具合は重要な情報です。
こうした指導法は主観的であり、指導者の力量の影響を受講生は大きく受ける可能性があります。そこで、身体を声楽の楽器として作っていくのに主観だけでなく客観が加わることは有効と思います。
声の状態を数値やグラフで示すことを授業で実施したのは、2018年~2021年までの東京大学教養学部『芸術創造連携研究機構』の身体運動科学者・工藤和俊先生との授業『楽器としての身体:声楽の実践と科学』です。自分の歌の状態が数値やグラフで示され、視覚的に確認できるということに大きな興味を持った学生さんは少なくなかったと思います。
耳鼻咽喉科医師の米山文明氏は『声楽家志望者に対して指導者の当たり外れがあってはならない。』と記述なさっています。その解決に、科学は貢献できると思っております。
私の発声法は、あくび、の時のように喉をあけ、息で丹田と共鳴腔を一つのスペースとして運動する感覚で発声する、です。何故、あくびの時のようにか?というと、あくびはその人が瞬間的に酸素を取り込もうとする生理反応で、その人に適切に喉があくからだと思います。喉をあけるというのは、声楽の発声基礎として、日本国内外で伝統的に指導されてきています。
私は、そのあくびの歌声への効果を数値で確認したいと思い、博士論文研究として取り組みました。世界的耳鼻咽喉科医師の米山文明先生のご指導で、東京大学造船科の船の見えない不完全な個所を見つける装置を使用しました。あくび使用の有無による歌声の響きの状態を体表振動測定で見ました。ソプラノの高音,中音,低音の3種類を計測し、高音(顕著に)と中音は、あくびの姿勢の共鳴への効果が明確に示され、低音はあくびの効果は全く示されませんでした。
その頃に、身体運動科学者(東京大学)である工藤和俊氏の学会発表内容に感銘を受けました。工藤先生のご研究にはリサーチマップや東京大学のホームページからたどることができます。私は特にスキージャンプ選手のジャンプする瞬間の足の裏と地面の接触についての研究内容は声楽の身体運動に直結していると直感しました。その他に、相撲の関取の足の裏と地面との接触面の研究についても私は声楽の身体姿勢にとって貴重な情報であると感じました。
主観に偏りがちの可能性がある声楽発声訓練に科学の客観の目を加えることを大切にしたいと思っています。
どのような方法があるのかを探したいと思います。